記憶を新鮮なままで

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9PROJECT「熱海殺人事件-1973初演版-」を観てきました

 

こんばんは!

 

今日は1年ぶりに(!)大衆演劇でない舞台を観に行ってました。

9PROJECT「熱海殺人事件-1973初演版-」です。

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私がこの舞台を観に行こうと思った理由は4つあって、1つ目は大好きな「劇団朱雀」に出演していたキャストが出ているから。2つ目はつかこうへい作品、熱海殺人事件という作品に触れてみておきたかったから。3つ目は東京へ行くのは大変でも神戸で上演してもらえるのなら行きやすいと思ったから。そして4つ目が、大衆演劇並に値段が安くて気軽にチケットを買えたから。このところ私はしょっちゅう大衆演劇に行くようになったこともあって特に4つ目の理由が大きくて。申し訳ないながらそういった軽めな気持ちで観に来た舞台だったんですね。行けるものは行っておこうという気持ちでした。

しかもそもそも今日はそのまま明石へ大衆演劇を観に行けるかなと思ってたんですよ。でも今日はそれもせずに帰ってきました。というかできませんでした。今日はこれ以外のことを考えられるはずがないと思いました。

自分でも驚くほどに心の底からの涙が出通しだったんです。上演中だけでなく上演後も。或る場面から魔法がかかったように終演まで涙がずーっとずーっと溢れて溢れて止まらなかった。こらえてたまってぼやけて瞬きして流れて、またこらえて、の繰り返し。この繰り返しが終わらないうちにラストを迎えてキャスト4名がまた現れて袖へ消えて、セットだけが残された状態になっていた。まだ心が落ち着いてなかったし心臓の高鳴りがずっと聞こえて収まってなかったけれど、自分が興奮していることだけは感じていました。帰り際に思わず明日のチケットとパンフレットを購入して、そのまま今日応援に来ていたBチームの藤原儀輝さんにまるで送り出しのように「物凄く泣いてしまって…」と声を掛けてしまったし、儀輝さんと喋っているだけでまた涙が込み上げてきたからとにかく必死でした(儀輝さんものすごく優しかった)(開演前も手首の検温と整理番号回収をしてくれた儀輝さん)(Bチームも応援してます!)。劇場を出た後も儀輝さんと話してたときに溜まった涙をごしごししながら駅へ歩いたし、その涙を自制することさえできなかったんですよ(傘とマスクがあったのでセーフ)。こんな体験は本当に初めてで。私自身人前で泣くのが苦手で、泣きながら外を歩くなんて考えられないのに、今日は顔が歪むほど三宮の歩道を歩きながら「号泣」していて。それくらいに私にとって今日は今までにない大切な日で、特別な体験ができた日になりました。こんんなに泣くとは思ってなかった………

 

諸々のこの舞台の説明等はHPを見てもらうのが一番良いと思うのでここでは省くしここからいきなりネタバレしますが、

 

ハナ子が黄色い花弁の花束で大山を全力で叩き倒して花弁を舞台中に撒き散らしたときに、ありえないほど涙が出た。あれが何の花なのか分からないけどあのハナ子(=アイ子の演者でもある)のそれは破壊的な祝福だし、"命を散らすほどの祝福"という強く濁った芳しい「香り」がマスクの上からもじわじわと強く迫り続けた。ブラックコーヒーのような風味の終盤には不思議とその花の香りは苦い香りに変わっていて、そういう「この瞬間この現場でしか味わい得なかった視覚と聴覚と嗅覚による強い衝撃」に圧倒されて涙が止まらなかった。高野愛さんの声も漲って活き活きとしているし岩崎祐也さんの声も貫通力があって迸っているし、仲道和樹さんの声も優しく熱く静かに場を捉えるし、そして小川智之さんの声は空間全体を薄ーく広ーくザラザラと自分のものにしてる感じがあって最後には智之さんしか見えなくなった。えーーーーーーーーーー…好きだな…と心底思った。最初の方は筋を追いつつも話に頭がついていけてなかったこともあって、全体を見て何か賢いことを言うことはできなくて。話の作り方というか考え方が面白いのはなんか分かるんだけど、それも作用してるのかもしれないけど、そうじゃないところで私はめちゃめちゃに泣いてしまった……。私はにおいでものを見ることが多いと思ってるんだけど、そのにおいが「におい」として「におい」という意味で迫ってきた衝撃で今も頭が痺れて感覚が変。つまり、その場に醸され漂い移ろいゆくその瞬間にしかない「空気の心の感覚」を、感じ取るだけでなく的確に「攻撃的で芯の強い確かな固いにおい」「甘く優しく温かいにおい」が「花の香り」という形で顕現して、雰囲気自体はそのままに「嗅覚」として「におい」のままこちらに直接伝わってきたという感動があった。それだけでなく視覚においても、美しき罪人に昇華した大山を、黄色い花弁の花束を叩き散らすことで、華々しくかつ荒々しく祝福したように見えた馬鹿馬鹿しいほどに「美化」をする3人も一緒に「美化」されたように見えて、その美しく咲き、強い香りを発している花が逞しく荒れ散ってゆく力強さが全てを限りなく美しくしたように思えた。大山の身体に叩きつけられたそのもどこか瑞々しく感じられて、生命であるような、はたまた祝砲であるようなエネルギッシュさを感じた。

あの花はイコールアイ子であるように思えたのだけれど(それ自体美化なのだけれど)、美化されたアイ子によって美しい罪人となった大山、そして熱く美しい言葉を吐き続ける伝兵衛、熊田、ハナ子、の全ても何より最上に美しく見えた。

この場面後、その大量の花弁が散らされた床を見ているとこの全部の感情が一気に押し寄せてそれだけで涙が溢れたし、その床の上に立っている4人を見ているだけで、そしてそこから発せられる熱く美しい言葉を聞くだけでずっとずっと涙が出た。

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ラスト、伝兵衛が一人で警視総監に報告する場面では自分の目に溜まった涙と天井からの光で伝兵衛がもやもやっとぼやけてちょうどいい照明効果みたいになっていて、なんかそれも生の舞台ありきの見え方だったというか、二度と出来ない見方だったなと思う。

とにかく今日は物語も役者さん4人も最高だったんだけどほんっっっっとうにあの「におい」が忘れられなくて。そんな演出があるんだっていう。でも4人の熱が昇って昇って昇ってMAXになったあの場面だからこそ強烈に働いたにおいなんだと思う。戯曲が放つ熱く美しい言葉たちと、物語の持つ硬さも柔さも包含した空気感と、智之さんの大きな掌握力と、高野さんのいつでも新鮮な柔軟性と、祐也さんの持つ光沢のある全力さと、仲道さんの持つ落ち着いた熱さ

智之さんは大きな大きな麻風呂敷のようだし、高野さんは槍のようでもあり優しくしなる鞭のようでもあり。そして祐也さん、水晶のような形をした真っ赤に輝く透き通った美しい宝石のように見えた。仲道さんは青く細い宝石のように見えたので対照的だった。そういうニュアンスというか、そう見えた。マイナスベクトルを持たない4人のエネルギーが、あのにおいを「あのにおい」たらしめたんだろうなと感じる。(仲道さんからはマイナスイオンは出てる気がする(笑))

 

頭の整理がついていなくて戯曲の妙については纏まらないし書けないけれど、とにかく熱く熱く、強い強い舞台だったな〜、と思ったということは書ける。私は熱海をこれしか知らないので花束の演出が他はどうか分からないけど、あの演出のおかげで私の最高の熱海になった。観に行って心底良かったし、出会えて心底良かったし、今日のこの作品との邂逅のきっかけになった全てに感謝をしたい気持ちでいる。

生きた「美しい」に出会って涙を流す瞬間が最高に幸せ!!!!!!と改めて思えた。素敵な時間を本当にありがとうございました!!