記憶を新鮮なままで

こっちでもりんごアイコンです。見たまま聞いたまま感じたままを咀嚼しきる前に留めておきたい。コメントくれるとめっちゃ喜びます。

風髑髏にハマりました。(ネタバレだらけ)③

②の続きです。

 

第二幕。髑髏城に入った蘭兵衛(向井理)を出迎える天魔王がやっと仮面を外します、誰もが息を飲むシーンですね、なぜ息を飲むかというと仮面の下の顔は天魔王でありながらにして松山ケンイチだからなんです、間違いなく「捨之介と似た顔」だからなんです!!でもその狂気を孕んだ形相は捨之介のときの松山さんとは明らかに別人物。だから息を飲むわけです、舌を巻くわけです、松山ケンイチの振れ幅に!!!いやほんとすごいんですよ目をギラギラ輝かせてダーク感満載の表情で髭を蓄えて発する声は権力者の声そのもの。自信に満ちて怖いものなど何もないといったような凄みのある、しかし落ち着いている、とにかく恐ろしい声。「虫けらども」というセリフがなんとしっくりくることか…もし捨之介の声で「虫けらども」と言うときっと何か軽い冗談のように聞こえるのに天魔王の声で言うと途端に正気で言ってるような現実味を帯びる。松山ケンイチはすごい…(何度でも言う)

風髑髏のポイントは鉄砲300挺で何を買うのかと天魔王に問われたときに蘭兵衛が「無界の男と女、その命」と答えたところにもあると思ってる。「男」も含まれるんだな、という。

そこは置いておいて、「あいつらがいたからここまで生きて来られた。今度は私の番だ」と言う蘭兵衛に返した天魔王の一言がまたビビッと私の胸を貫いて抉りに抉る、「聞こえんのう」というその一言だけなんですよ、これがもう本当にすごい!!!何がすごいかは本当に実際に聞いてもらうのが一番なんだけど少し歌うようにというか、本当にゆっくり滑らかに言うんです、「聞『こ〜ぅ』」にアクセントを置いて「えん」、そして「のう」でゆるっと伸ばす。あんなに恐ろしい「聞こえんのう」は初めてで身震いするしそのときの天魔王の表情がまた良い…そして黒い扇で膝をトントンと打つ仕草もまさしく悪の親玉のそれで、正真正銘の天魔王という感じ…。松山ケンイチに痺れましたね。でもこちらが痺れ切ってる間もなく事態は急変します。蘭兵衛が「ならば」と言い天魔王が「ならば、」「どうすると言うのじゃ」とまた必殺声色信号機。青から赤にパッと変わる。危険の赤。ここからだ!っていうそのアクセルを静かにでも確かにグッと踏んだ感がこちらにもググッと伝わって緊張感マックス、もう瞬きもできないし一瞬たりとも目が離せない!!!!!!!途端に銃をパンと撃つ蘭兵衛、鬼のような形相で腕を大きく広げ立ち塞がる天魔王。「撃つか!!!!!この儂を!!!!」と口をぐいっとへの字に曲げて目をひん剥いて蘭兵衛を見下ろす天魔王、もう完全に松山ケンイチに憑依してた。その威厳のある天魔王の顔面はきっと信長にたいそう似ていたのでしょう、蘭兵衛がひと思いに撃てなかったのはきっと愛する信長の影がよぎったから、だと思う。機敏…

追い討ちをかけるように天魔王の取り出す仮面。「見よこの面に見覚えはないか」と問いかける天魔王に「まさか…そんな!!」と完全に取り憑かれるように仮面を手と首で追う蘭兵衛、そしてそれをひょいっと持ち上げて届かないようにしてからすぐに蘭兵衛の顔近くにずいっと持ってくる天魔王(こういうところだよな人の者として人の心を操る技に長けていたのは、と思う)。「そう、この面こそ信長公のしゃれこうべ(ここまで早口)。私は私であって私ではない、私こそが天魔の御霊!」と言う天魔王本当に威厳があるし、蘭兵衛はというと仮面に完全に虜になりキュッと結んでいた口をあわあわと半開きにして目をとろんとさせてた。本当に信長公を心から愛していたしずっとその想いは断ち切れていないし、今その想いが濁流のようにどくどくと流れ出ているのだなと分かるようなその心の動きを全身で表現していた向井理

それをいいことに更にギアを巻いて「さあこれを飲め、この器も信長公の遺骨をつなぎ合わせて作った」「私が欲しいのは鉄砲300挺などではない。森、蘭丸!そなたじゃ」といっそう重々しい声を張り上げて信長とそっくりな顔で蘭兵衛に訴えかける天魔王。そしてその天魔王を見る蘭兵衛の目よ…まるで長年恋い焦がれた人からの告白を受けたかのような恍惚の表情で全てを受け入れるようで、身も心もすべて捧げた信長亡き後自分だけ生き残って無念のうちに自分の心を押し殺してただ生きていたんだな、と思い切ないような辛いような……(でもきっとこの瞬間蘭兵衛は物凄く幸せ)

この「そなたじゃ」と言った次の瞬間天魔王はあろうことか蘭兵衛に力強いキスをするんですよね、そして口を離したかと思うと天魔王がその口にグラスの中の酒を含み蘭兵衛に口移しするんですよ…!!まさに禁断のキス、ぞくぞくするし何なの何がどうなるの!!!という感じ。天魔王が離れた後一瞬苦しんだかと思うとフラフラよろよろと立ち上がり、口から紅い色をした血のような酒のような液体をツーっと垂らしたかと思うと自らグラスを求め酒を飲み干す蘭兵衛ね…そのグラスは信長の骨だから、蘭兵衛が信長との口づけを求めるように見えたし信長との口づけを味わっているように見えた。完全に夢の中だし憧れたあの日々をもう一度、というような、現実を見ていないような表情。それをわざとらしくなくサラッとできるのは向井理がクセのないクールな顔であるからこそだなと思うんですよ、無駄がなくて本当に綺麗で幽玄で実体のない感じ。(本当に美しくて、私がこの作品が好きだと心底思えたタイミングはこの一連の場面。風髑髏の天魔王が蘭兵衛を籠絡するこのシーンは本当に素晴らしいです。ガクンガクンと何度でも痺れてしまう)

(このグラスに入っていた酒の正体が夢見酒であり一種の麻薬であったことは別の髑髏城で知ったけど、私は風髑髏が初髑髏だったので夢見酒であったという事実は知らずにただの酒であるというように見てた(風髑髏では夢見酒に言及していなかった)。これはかえって良かったと思っていて、天魔王の策略云々に関わらず信長の骨で出来たグラスだという事実が、そしてそのグラスに入った酒イコール信長の血だというその理屈が蘭兵衛を蘭丸に引き戻し、狂ってもいい、天ともう一度ひとつに、と思わせたのではないかと感じた。中身がただの酒であれどむしろ蘭兵衛の心が信長によって大きく揺り動かされていることが逆に分かる描写になっていたのでとても深く面白く思った)

 

松山ケンイチはみんなに慕われる主人公役もこれでもかというほどしっくりくるんだけど人の目を不意に惹きつけてしまう魔力を持ったような悪の権化という感じの役も本当にぴったりくるな、しかもそれぞれで別の顔を出してくるから本当に振れ幅!!!ってなる。

そして向井理はその綺麗な顔が固く作られたマスクのようで真意を滅多に表に出さないんだけど、でも表情は機敏だからどこか読み取れる。それがぶわぁぁ!!と炸裂したとき、隠していたものがふとした瞬間溢れ出したとき、チクチクとした矢がひとまとまりに一斉に襲ってくるような感覚を受ける。「俺だってこんなに渦巻いてんだよ!!!」と訴えかけられる感じ。この2人がぶつかり合って良さを出し合って、本当に心が打ちひしがれる忘れられないシーンがここでしたね、これだけで2900字も書いちゃった。

 

追記

蘭兵衛が「そんな話をしに来たわけではない」と言った後のシーンだったかいつだったか、天魔王が仏頂面で「ほぅ」と言って手に持ってた黒い扇子を凄い勢いで軽くバッと投げ捨てる場面があったんですよ。あそこに天魔王の面白いもの好きで少しワガママな性分が凝縮されてて好きです。投げ捨て方も二次元のように綺麗で感情が乗ってて大好きでした。

 

続く